読んだもの雑記

主に漫画の感想を書いていきます

追悼 吉野朔実

驚きました。

最初に読んだのは「少年荒野」を高校生の頃にリアルタイムで。

狩野は自分の2つ下の1970年生まれという設定でした。

85年9月連載開始、狩野は中3の冬に文芸誌で佳作受賞でデビューします。

この頃でいうと「1980アイコ十六歳」で堀田あけみが当時最年少の17歳で

81年に「文藝賞」受賞。

「川べりの道」で鷺沢萠が当時最年少の18歳で

87年に「文學界新人賞」受賞。

その少し前、78年に見延延子「もう頬づえはつかない」、

79年に中沢けい「海を感じる時」と、女子大生作家デビューがあり。

女子中学生作家の誕生も、可能性としてはありえるなーと思わせた時代。

とはいうものの「男の子でありたかった」のであれば、

なぜゆえ腰まで届くような長い髪を維持しているのであろうや…?

そんな雑な疑問と共に読み進めていた記憶

(後に、執筆当時のご本人の髪が、あの長さだったと知りました)。

次作「ジュリエットの卵」もそうでしたが、食べることにはほぼ無関心、

めっちゃ細くてめっちゃ髪の長い、美しい繊細な少女が主人公

(しかも自分の美しさには無頓着)というのが

「リアルにいたら、友達にはなれてない」タイプ。ねたましいので。

それでも! ストーリーが面白いから読んでしまう!! 結果的に、

大人になって何度も読み返すのは「恋愛的瞬間」「いたいけな瞳」と

短編色の強い作品になりました。ちなみに「いたいけな瞳」は

よしながふみ「フラワー・オブ・ライフ」で「カラスのごめん」

「イチゴフィッシュ」「トールの腎臓」「六つのエメラルド」に連なり

「いただけない瞳」と名を変えて、名作と賞されています。

以下「いたいけな瞳」からひとつ抜粋。

 

不幸によって人格は形成される

たとえばこの皿

好き嫌いはいけないという強迫観念から ←このへんが不幸

ついつい嫌いなものばかり取ってしまう ←このへんが人格

(文庫第2巻第10話「ささやかな不幸」)

 

「恋愛的瞬間」から。

 

恋をしたことがない

それは恥ずかしいことですか?

恋をするのが当然だと思い込んでいませんか?

しなくたっていいんですよ

人が言うほど当たり前じゃないんだから

でなければTVや映画にあれほど恋愛物が多いはずがない

運命の恋人に会った者に他人の物語は必要がないんです

(中略)

それでも他人とつき合うことは出来るし

結婚は出来るし子供も出来るんです

そう 至福ではないにしろ幸福です

本質的事実に気付かなければなおよろしい

しかしあなたのように はず や つもり でつき合えない人間は

むしろ至福を得る可能性が高い

欠乏感が強い方が必要なものを得やすいというのが理屈です

(文庫第1巻第6話「恋をしたことがない」)

 

…ともあれ。

久しぶりに読み返しましたが「吉野節」とでもいうべきロジックは

紛れもなく自分の血肉になっております。

夜が明けたら「月刊flowers」を探しに行かなければ。

吉野さんと杉浦日向子さんは同じ学年の生まれで

自分の10歳上。中学→高校→大学生の頃って、ちょうど自分より

10歳くらい上の方たちが作る創作物にハマるものではないですか。

今年に入ってからだと小山田いくさんといい。

著作を読み返すしか、手向けとしてできることがないのが残念です。

素晴らしい数多くの作品を、本当にありがとうございました。

吉野朔実さんのご冥福をお祈りいたします。