読んだもの雑記

主に漫画の感想を書いていきます

80年代アイドルの自己表現について

昨日発売の週刊ビッグコミックスピリッツが

80年代アイドルを特集しておりまして。

それきっかけで、最近チラッと調べていたものの成果など。

 

87年11月ー斉藤由貴(21歳)10thシングル・オリコン4位

88年3月ー小泉今日子(22歳)25thシングル・オリコン2位

88年4月ー森高千里(19歳)4thシングル・Wikiに項目なし

88年9月ー松田聖子(26歳)26thシングル・オリコン1位

89年6月ー南野陽子(21歳)15thシングル・オリコン2位

91年7月ー中山美穂(21歳)22thシングル・オリコン2位

94年3月ー工藤静香(23歳)21thシングル・オリコン8位

 

ささっと種明かしすると、上記はすべて

「アイドル本人が自作詞で初めてシングルを切った曲」となります。

 

斉藤由貴=「さよなら」→主演映画『「さよなら」の女たち』主題歌。

当時のフォーマット的に、ヒロインを演じていれば、まぁ歌います。

5th「悲しみよ こんにちは」B面で19歳の時に自作詞提供経験があり

同日発売2ndアルバム10曲の内4曲が自作詞。

同時期、朝ドラヒロイン(NHK「はね駒」)を演じ

最高視聴率49.7%を叩き出し余勢をかって紅白初出場&紅組司会。

その後88年にはドラマ「花園の迷宮」(日本テレビ開局35周年記念)、

映画「優駿」(フジテレビ開局30周年記念)、

ドラマ「女優時代」(よみうりテレビ開局30周年記念)と

立て続けに局をあげての記念作品主演を歴任。

そんな「国民的女優」にとって、歌手活動・とりわけ作詞業は

プライベート…のわけはないんですが「わたし自身」を発露しやすい

場所だったのでしょう。実際に「シングルでひと山あてる」よりは

「コンセプトにこだわるアルバム・アーティスト」でしたし

ランキングにこだわらず、セルフプロデュースを展開していった記憶。

コミケ大手壁サークルかな?

対照的なのが中森明菜で、彼女は同じくセルフプロデュースといっても

5th「トワイライト」のジャケ写を自分で選び、

7th「北ウイング」では作曲家に林哲司を指名し、タイトルも考案。

衣装や振り付けなどに、どんどん自分のアイデアを出していき

タイアップに頼るようなことは退け、それでも「今週の第1位」に

こだわります。少年ジャンプ巻頭カラー常連かな?

ただし、シングルの作詞を手がけようとはしなかった。

本人曰く「プロデューサーのわたしがいて、タレントの明菜ちゃんが

いる」。作詞家のAKINAさんに発注をかけたのは実にデビュー13年目・

32th「Tokyo Rose」と、かなり遅い。それも上澤津孝との共作であり

自作詞については慎重だった様子がうかがえます。

「作詞」が自分の主戦場ではないと判断していたのでしょう。

 

小泉今日子=「GOOD MORNING CALL」小室哲哉作曲。

最大ヒットはこれも自作詞「あなたに会えてよかった」(91年・32th。

「パパとなっちゃん」主題歌)で、ハウスや学園天国のカバーなど

試行錯誤の末の自作詞路線復活が、主題歌になって花開いた感。

順風満帆なキャリアの方なので、追記事項はあまりないのですが

「あなたに会えてよかった」はその年の日本レコード大賞作詞賞受賞。

89年の作詞賞は吉岡治「好色一代女」(歌・内田あかり)、

90年の作詞賞は竹内まりや「告白」(歌・本人)。

90~92年はレコ大にポップス・ロック部門と歌謡曲・演歌部門ができた

時期で、賞レースの構造にメスが入った時期ではありました。

それでも作詞を専業としない、しかも現役アイドルが受賞したのは

画期的。直前の受賞者の顔ぶれと比較すると一目瞭然でしょう。

個人的にはこのあたりで「聖子明菜コイズミ」の3強から

存在感としてコイズミさんが完全に頭ひとつ抜けた感があります。

 

森高千里=「ザ・ミーハー」…前後の方たちに比べると

87年デビューの森高が、いかに徒手空拳だったかがわかります。

聖子明菜が現役でヒット出してて、最大勢力85年組が百花繚乱。

歌唱力? 顔? プロポーション? 演技力? 愛嬌?

どの分野でも先人たちが陣地張ってたわけで、活路が「自作詞」。

同年デビューの酒井法子が「のりピー語」を駆使する設定を必要と

したのと、理由は同じでしょう。当時のサンミュは聖子在籍、

84年デビューのユッコもレコ大新人賞受賞からの展開で、

景気のよい時期ではありました。それでも「のりピー語」。

いわんやアップフロントをや(アイドル商法にノウハウ皆無)。

ドラム叩いてるだけじゃ弱い、と判断されたのでしょうか。

この曲を収録したアルバムは同年3月発売なので、厳密には

「高校3年生の卒業間際に、突然言われて作詞することになりました」。

高校生の作詞を商業ベースに乗せてシングル切ってみた、なんて

同時代なら尾崎豊くらいしかやってなかったんじゃないかな。

彼ははじめから作曲含め、自作志向でしたが…。

他のアイドルはみなさん、ヒット曲などの実績を作った後に自作詞です。

とはいえ、結果的には大成功。森高は本当に頑張り屋さんでした。

89年に「ベストテン」90年に「トップテン」「夜ヒット」終了。

ゴールデンタイムの音楽番組が「ミュージックステーション」一択に

近い状況になっていた92年、森高は女性ソロ初の

「全都道府県制覇ツアー」を敢行しています。

もしも00年代にデビューしてたら握手会皆勤とか

また違ったタイプの見え方で頭角を現したに違いありません。

 

松田聖子=「旅立ちはフリージア」。Seiko名義です。

産休明けでも人気は健在、と思いきや、

この初の自作詞シングルが24作連続1位の最後の曲となってしまいます。

いや、もうちょいヒットは続きますが。

キョンキョンと同じで、この人も自作詞が最大ヒット。

「あなたに逢いたくて~Missing You~」(96年・38th)。

しかし人気のピークと同時期とは言えず、CDバブルの賜物かと。

個人的にはまったく詳しくないのですが、自作詞へのこだわりに

賛否両論があるとかないとか。。詳しくないので記述はここまで。

 

南野陽子=「トラブル・メーカー」。89年は事務所独立の年。

「君の生まれ(事務所)の不幸を呪うがいい」とはガルマ・ザビと

南野陽子によく似合うセリフです。高値安定のキョンキョン、

復活急上昇の斉藤由貴、この2人に共通なのが「デビュー以来

事務所が変わっていないこと」。比べると、ナンノは不遇でした。

しかしレコード会社は強かったし、楽曲もよかった。

「ニッポンの編曲家」(DU BOOKS)にてほぼ全員の証言者から

「萩田さんの編曲はすごい」という言葉を引き出した萩田光雄。

「飾りじゃないのよ涙は」のアレンジを最後に中森明菜ワークスから

手を引いた萩田氏が次に注力したのが南野陽子です。

山口百恵→松田聖子の流れを受けたCBSソニー王道アイドル路線の

後継者として恩に報いたナンノは「作編曲・萩田光雄」の

9th「秋のIndication」でオリコン1位を獲得し、返礼とします。

歌唱力で突出しなかった、「スケバン刑事」「はいからさんが通る」

「菩提樹」くらいしか主演・主題歌が連動していない

(当時としては少ないです。商売ベタ。ドラマと歌手とで

マネジメント部門が別だったせい?)etc.さまざまな理由から

「今でもカラオケで歌いたくなるような、印象の強い曲がない」

とまで言われてしまうナンノですが、オリコン1位獲得は実に9曲。

小泉今日子や工藤静香(各11曲)には追いつけずとも

中山美穂(8曲)、菊池桃子(7曲)を上回っています。

「ジャケ写商法」とも言われましたが、特にガチンコで

全盛期が重なった中山美穂とは、互角以上の勝負となったようです。

あまり知られてないかもですが、

ラストのオリジナルアルバムでは

ほぼ全曲の作詞作曲を手がけていますし、

ライブではギターやキーボードの弾き語りもこなすなど、

後期の音楽活動スタイルは意外と森高にタイプが近い。

ひるがえると「ただのミーハー」「ただのわがまま トラブルメーカー!?」

(歌詞一部引用避け)と、批評的な視点で自己規定しようとするところも

似ていたり?  しかし森高は事務所移籍なしどころか立役者で、

その点は小泉今日子タイプ。

森高がセルフカバー200曲に挑戦できたのは

事務所のバックアップあってのことだと思えますし、

80年代デビュー組の周年イベントの中では、

最も誠実にファンに向き合える環境が整えられており、

かつ実行を果たしました。

一方ナンノは準備期間こそ短期決戦でしたが

デビュー30周年の2015年に、当時とキーを変えずに

シングルメドレー的セットリスト・生演奏でコンサートを開催。

アンコール公演となった2016年6月26日のステージ上で

3日前の49歳のバースデーを祝われ

(18歳の誕生日デビューの時のようにバースデーケーキが登場した)、

その壇上にて「これでもうコンサートは最後」宣言を行います。

歌手活動を不本意な形で奪われてしまったナンノが

自らの手で見事な「落とし前」をつけた形となりました。

この矜持が、今後のナンノの芸能人生を照らしていくことを

心から願っております、いちファンとして。

 

中山美穂=「Rosa」。井上ヨシマサ作曲。名義は一咲。

本人の声があまり出てないけど、この曲自体は、

ダンスなども含め、かっこよかった記憶。

小室をいち早く起用したり、スタッフ(&本人)が

センスよかった。のに、どうしてこうなった。。

月9ヒロイン作品数ナンバー1、TBSでも活躍し、

80年代、90年代、00年代かつ自身が10代、20代、30代と

各世代にわたって主演ドラマ20%超を記録した女優さん。

しかも80年代デビュー組女性ソロでミリオン2曲を出したのは

今井美樹と中山美穂だけ。同世代では

91年=薬師丸、94年=斉藤、95年2月=小泉と

歌える主演女優が結婚・芸能活動セーブ期に突入。

95年3月公開の映画「Love Letter」(岩井俊二監督)ヒロインを皮切りに

同世代アラサー女タレントの中で

90年代後半の実績は中山美穂無双だったと記憶する。

同時期、今井美樹はスキャンダルがあったのでね…。

斉藤由貴「はね駒」は86年4~10月の放映でしたが

その直前の時期(~86年3月)に

中山美穂は「毎度おさわがせします2」に出演していました。

3学年違い、ファン層の違いを考えても、なんというギャップ。

それを思うと、90年代後半の歌手部門女優部門の2冠を制覇したも同然の

ミポリンは本当に頑張りました。

だがしかし。同期の斉藤由貴や同学年の森高にくらべて

今の露出の少なさよ。この人もほんの一瞬別事務所にいましたが

ソロデビュー前に移籍、それからずっと同一事務所所属なので

本来ならプッシュしてもらえる立場なのですが、

昨年のデビュー30周年記念イベント系もほとんどなく

これからのリカバリーが最も難しいタレントさんになってしまった印象。

親が離婚した場合、子供は育った国でそのまま過ごす方がよく、

父親がフランスを拠点にするなら親権も父親にある方がよいそうですが。

「子供を必要としない人生」を唱えた山口智子が控えめに言っても

賛否両論なのに対し、中山の選択に「賛」を唱える向きは

ほとんどなく。ただ、20代後半の活躍を思うと仕事は

精力的にこなしていたと思うので、斉藤由貴のような「復活」を

遂げられるかどうか、当分時間をおいて見守りたい感じです。

 

工藤静香=「Blue Rose」。名義は愛絵理。

二科展やアクセサリーデザインなど「創作活動」のイメージが強い割に

自作詞シングルは意外と遅く。「中島みゆきが詞を提供」

(今思うとポニキャン渡辺氏つながりなんだが)+歌唱力で

中森明菜と入れ違いに、88年時には最大ヒットを出した

女性アイドルの座を射止めています

(87年=「TANGO NOIR」年間第2位、

88年=「MUGO・ん…色っぽい」年間第5位。

この年は年間トップ3を光GENJIが独占)。

この人は89年のドラマ「叫んでも、聞こえない」の女子生徒役で

卓抜した演技力を見せていたので、

もう少し女優活動も続けていただきたかった。本当にもったいない。

もはや「好感度」とか気にしなくてもまったく平気なポジションに

いるので、勝ち組と言えば勝ち組ですが、ファンとしてはもっと

本人に表舞台に出てきてほしいだろうなぁと思います。

斉藤由貴の例にならえば、子育ても一段落したところで

これから本格復帰もありうるかな…??

 

さて。ここまで書いてきて思ったのですが、

今のアイドル戦国時代において

「自作詞」でシングル切ってるケースって

少ないんじゃないかと。

グループ活動が多いから、できてCWとかアルバム曲とか?

握手会あるし、ダンスレッスンしなきゃだし、SNSあるし。

むしろ、作詞するより「本」出す方が、編集者ほかの手も借りられて

アプローチしやすいかも。(元・も含む)アイドルが

大学受験を突破した本とか、大学での専攻を生かした本とか、

そっちの方がプロフィールにも書きやすいし

「名刺代わり」になるみたいなんだよね。

でも、80年代アイドルをリアルタイムで見てきたおばさんとしては

もっと自作詞を歌ってみてほしいのよね。

いや、歌ってるんだろうけどライトファンでいるうちは、

なかなかお目にかかる機会がないのよね。

80年代にオリコン1位を独占した秋元氏が

まさか30年経っても1位にいるとは予想できませんでした。

ファンにとってのSNSへのニーズなどから考えると、

単に「作詞」に誘導されてないだけだと思うんです。今のアイドルは。

たとえばナンノが「トラブル・メーカー」をリリースした時は

それまでの「ロング・フレアスカート」のイメージから、

「歌詞世界に近い、OLチックなスーツっぽい衣装

(ただしスカートはひざ下丈)」に寄せてきたりとか、

「その瞬間のわたし」を丸ごと体現するための強力な素材に

なるんですよね、自作詞って。その点、グループな時点で

テイストの似た服を全員が着るから「制服」っぽくなってしまうし、

「個」が見えづらくなってしまう。もっとソロシングルはよ!

須藤凜々花ちゃんくらい力のあるテキストを書ける人なら

自作詞ソロとかやってくれそうな気もするんだけど、

作詞はまた別の筋肉使うからなぁ。

とりとめもなくなったところで、この項終わり。