読んだもの雑記

主に漫画の感想を書いていきます

私が漫画編集者を降りた理由 最終回

漫画編集者を辞めて入った編プロの試用期間が終わる瞬間に、
今の会社に契約社員として採用されました。「契約か」とは思いましたが
とりあえず収入が上がるので、現ナマを掴みにいったのです。
一般誌に配属され、20代最後の半年間〜38歳の今に至るまで、
無我夢中で仕事をしました(ホントは無我夢中じゃダメで、戦略的でないと
イカンのですが)。途中、我ながらラッキーだったのは「漫画レビュー」の
担当になれたこと。コミックでも文芸でも、新刊発売タイミングでの
インタビューならプロモーションの一環なので、ギャランティは発生しません。
それはともかく、そういったタイミングでなら著者に出てきてもらうことが
比較的容易です。
「雑誌発売期間内に発売になるコミックで、1巻or最終巻」
  ↑一見さんが手を出しやすいから
これをルールというか原則として、くるくるとページを回し始めました。
基本的にはビッグタイトル狙い。インタビューがダメならファックスコメント、
それでもどーしてもダメならレビュー。無理だと思っていた地方在住作家さんが
偶然上京していてお会いできたり、逆にOKかなーと踏んでたら、
けんもほろろに断られた…ことはあまりありませんでしたが、
担当編集者にアクセスする時点で
「あれ、なんかこの人と相性悪い?」と思ったら、案の定ダメで。
でも、それは1回だけ。
で、さすがに30歳過ぎると「相性ってあるから、しょうがないよねー」で
次にいけるようになるものです。
えーと約2年間でインタビュー:ファックス:レビューが6:3:1くらい。
振り返ると、結構漫画家さんにはお会いできました。誰にアクセスしたかは
守秘義務でゴメンナサイ。インタビューとは別に12L×10Wくらいの
「コチラもオススメ!」欄があって、
そこで「美川べるのの青春ばくはつ劇場」1・2巻
同時発売を逃さず紹介できたのが我ながらGJ!って感じですか。
 ↑初のオリジナル作品刊行。
結果的に、組織改変に伴う担当替えで
私の「漫画レビュー」担当期間は終了しました。
漫画家さんと直に会えたインタビューの時は、
担当編集者が同席することが6割くらい。
そこで、いろんな担当さんを見ることにもなりました。
で、そこでのやり取りを見ると
著者と編集者の関係値というのはわかってくるものです。
非常によいリレーションシップを保っておられる組もあれば、
「ハッキリいって『単なる、ただの』担当でしょ?」な場合もあり。
※後者、辛口に書きましたが事務作業
(原稿受け取り→写植指示→誤字チェック→入稿。
アオリ書いたり、人物紹介の柱作ったり)
しかしない≒できない≒求められない編集者もいて。
ケースはいろいろ。超大御所になると「編集者との打ち合わせ」
なんて状況になりませんから。
私がいた会社では「いただき原稿」と表現してましたが、
なんなら内容二の次で、
「その著者さんも描いている!」ということ自体が、
雑誌の格上げに繋がるケースもあります。
格上げというか、次に狙う著者さんを口説き落とす際の材料のひとつ。
こういう苦労は大手3社刊行の漫画雑誌には(ほとんど)ねーだろ! と
思っちゃいますねー。それとは別に以前の日記にも書いた
「不本意ながら漫画雑誌に配属されました感」漂う編集者も
目撃してしまったことがあるので、これは私怨。
ですが、漫画編集者志望の方には、
この辺の裏話のほうが楽しかったんじゃないのかという気が。
途中(「降りた理由③」)で鬱展開かませて、スミマセンでした……。
話を戻すと「いろんな編集者がいてよかったんだ」に集約されます。
もっとワイドで見ると
「別に仕事にアイデンティティを託さなくてもいい」というか。
真剣度と優秀さはまったく比例しないので
「今回の作品がコケても、別にオレの人生じゃねーし」
くらいのスタンスで開き直れる方が、案外いい編集者になれるのかも。
というか、自分の一般誌におけるスタンスがそう。
いやいやいや、もちろん熱心な編集者の方がイイです。
思うに「仕事に対する覚悟(浅くても深くても可)」
「自分の資質に対する見極め」
この2つがグッドバランスで両立できるとベストなんじゃないかと思います。
それは「編集者」という仕事に限らず。


「降りた理由①」に登場した著者さんとは「漫画レビュー」担当時代に、
再びお仕事をしました。
サイン会に並んだり、コミケのブースに買いに行った時に
お会いしてはいましたが、お仕事をするのは
私が漫画編集者を降りて以来なので、約6年ぶりです。
当時はコミックスが出ていなかったのに、6年の歳月でもう数冊を上梓。
インタビューの作品分のコミックスの後書きには
「初めて挑戦した、長編漫画です」とありました。
そして「今までで一番楽しく、やりがいのある仕事でした」と。
私は漫画編集者を降りてしまったけれど、
著者さんは漫画家であることを降りなかった。
著者さんだって、楽しいことばかりじゃなかったのに
(「よく『○○な感じのヤツ、お願いします』って言われるんですよー。
自分は全然そういうのやりたくないのに!」と聞いていました)。
自分はあれだけ願って、ついに果たせなかった夢。
だけど著者さんは逃げずに、現実と戦って勝ち取った。
そして更に進もうとしている。
あの時は何の力にもなれなかったけれど、
今回のレビューで著者さんの作品を紹介することで、
何かをお返しできればいいのだが……と思いながら帰途に着きました。
道は別れてしまったけれど、
またいつか、漫画家と編集者として再会する日を夢見つつ。
たとえそれが、どんな形であろうとも。
「私が漫画編集者を降りた理由」これにて完結。次は後書き予定。