読んだもの雑記

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「恋愛的瞬間」感想

文庫版2巻所収・第12話「秘密と嘘」より


「…でもねぇ 先生 私 お父さんは ○○を××れたがってるとこがあると思うの
 それとも ほんとうは ××れたくないのかしら?」
「それは… お父さんにもわからないだろうね」


問題行動を起こし始めた小学校(たぶん)高学年女子と、
「恋愛心理学」を専攻しカウンセラーも務める、大学の…講師かな?
(作中では統一して「先生」)、30代半ばの男性との会話。
ボカしたようでボカしてませんが、ブログ全盛の今だからこそ、
この短編の示唆するところはズシリと重みを増したような気がします。
と書くと、上記の伏字の方向性は察せられるものかと。
上記初出当時、まだまだブログなんざぁ影も形もありませんでした、が。
ネットでも紙にでも、胸中を「書いて」しまった時点で、
誰かの目に触れることは覚悟しなければならないのだということ。
「書く」ということの重さ。
もし「誰かに読まれる可能性」を想定しない上で秘密を書き綴り、
そして、最も読まれたくない人に読まれてしまったら?


秘密には力がある それが 秘密である限り
嘘にも意味がある 真実を 忘れない限りは


冒頭と、作中に反復されるフレーズです。
秘密が暴かれ、嘘が破れ、真実(≒現実)が露わになった時に
、何が起こったのか。
その確認は、ぜひ本編にて。
長編も短編も、それぞれに人気作を持つ吉野さんですが、
個人的には短編連作形式「恋愛的瞬間」の、この1話を
最高傑作だと考えます。
途中途中で挿入される、印象的な見開きの大ゴマ4カット
(初読から10年近く、今気づいた!
この4コマを辿るだけでもストーリー全体の
「起承転結」がわかる! スゴイ!!)。
多弁ではなく、かといって「解釈」を求めすぎない濃密なネーム
(行間が空きすぎると「んで、結局これはどっちの意味?」と
消化不良を起こすタイプなので、自分)。
そして「君のイメージではない」イヤリングに象徴されるモチーフ。
更に更に個人的には、
よしながふみ「フラワー・オブ・ライフ」も終幕で
「秘密と嘘」を巡る物語になったなぁ…と読みながら、
この短編を思い出しました。
あとは、そもそも言及した最大の理由ですが
「ブログがリアルを侵食した!」と
思ったことのある人にも、何かの鍵を与えられるストーリーなのでは
ないかと思われます。
最後に念押しで、先生と女子の、連想ゲームを引用します。それでは。


「学校」
「灰色。いつも汚れているから」


「友達」
「オレンジ色」
「どうして?」
「なんとなく 下校時刻っぽい色だから」


「好きな男の子」
「…青」
「青?」
「一番好きな色だから」


「ふうん 片思いなんだね」
「どうして わかったの?」
「好きな人に 自分の好きな色を着せてるから」


「じゃあ 両想いだと どうなるの?」
「基本的には 相手の好きな色や 似合う色を言うね
 あるいは もっと具体的な 物語やイメージ
 重要なのは 理由の方なんだよ」