読んだもの雑記

主に漫画の感想を書いていきます

お見舞い

駅で兄と落ち合い、病院へ向かった。
叔父の弟妹が病室に尋ねてきているということで、しばらく遠慮する。
母・叔母その2の待つ控え室のようなところで待機。
そこへ、叔母その1がやってきた。
30分ほど前に、本人と、私の母と、3人で宣告を受けたばかりだった。
「どんなに頑張っても、あと2週間が限度でしょう」と。


「容態が急変して」と事前に聞いていたので、覚悟はしていた。
火曜夜の入院だから、まだ24時間経っていない。病室に入った。眠っている。
人の気配を感じてか、ふっと目が開いた。思わず手を振る。
「おぅ」。
手を振り返してくれた。
いつもの、叔父の声だった。
もう黄疸の症状が出ていて、瞳が青みがかっていた。


「別に悲しくもないし、辛くもないし」と、
淡々といつもの口調で語りかけてくる。
寝たきりになっていたわけではないが、長患いの末である。
70歳を過ぎたところ。
前々日の電話で、兄は叔父から頼まれていた。
「○○(叔母)のことを、よろしく頼みます」と。
叔母夫婦には子供がいない。
私たち兄妹は、小さい頃から、本当によく可愛がってもらった。
高校の国語の先生。新卒時、教員だった私は
もしかしたら同僚になる可能性もあった。
教師になって喜んでくれたのは叔父だけではなかったが、
教師を辞める決意をした時
「○ちゃん(私)には向いてなかったかもしれないのに、
教師になってくれたのを喜びすぎて、
却って済まないことしたなぁと思って」と
申し訳なさそうに言った末に、受け入れてくれたのは、
この叔父ただ1人だった。
「○○さん(叔母)のことは大丈夫だから、
先生も安心して。だから、
○○さんの言うことちゃんと聞いてね」と兄。
「アイツ(叔母)、慌てるといっつも、単語ばっかり繰り返すから
何が言いたいのかさっぱりわかんねぇ」と叔父。私と母と、4人で
「あー、目に浮かぶわー」と笑う。
それが「本人の死」を前提にしているのだけが
信じられないほど、いつもどおりの会話だった。


15分ほどで辞去。
夏に兄夫婦+私&両親+叔母夫婦で旅行に行った時からは
想像も付かないほど、容態は悪くなっていた。
旅行、2日目の朝。その日は午後から出社する私に、
野の花を摘んだ花束をくれた叔父。
残り時間は、どうやらあとわずかだった。